「能面」をつくる楽しみ、面白さ (その2)

 前回の「『能面』をつくる楽しみ、面白さ」で、「祈り」のことを話しました。「能面」には、「祈り」がないといけないと感じています。「能面」をつくる楽しみ、面白さの大部分は、この「祈り」を古面から写し取ることだとも思っています。特に室町時代の古面には、様式化された江戸時代の面とは全く異なる「祈り」が感じられます。私の「能面」制作は、室町の「祈り」を、師匠の能面を通して写し取るという室町時代の作者との対話だと思っています。現代にも通じるその「祈り」を感じ、表現できることに、この上ない喜びと仕合せを感じます。

 古典文学に接することで古の人びとの人間味のある深い思いや感慨を知ることが好きであった私には、室町の「能面」との対話は、言葉を超えた次元での現代と過去との交信の様です。混沌とした現代に生きる自分に、人間の本質と有様を示してくれます。そして、私の内にある性(サガ)を受け止めてくれます。変わらなくてはいけない自分、このままで良い自分を教えてくれます。月夜のひかりの様に人生の道程を示してくれます。

 古面を写すとき、それらのヒントが現れたり消えたり、自分のこころの在り様で変化するのが、「能面」をつくる楽しみで面白さでもあります。こちらのこころの持ち様で、「能面」が変化して行きます。その変化がこの上なく楽しいのです。そして、自分が古の作者と同化できたと感じる時は、魂が浄化されていることに気がつきます。些細な悩みや苦しみなど、人間の大義に比べたら、どうでも良くなります。

 難しいことは何もありません。自分のこころに素直になればよいと思います。形ではないかたちを捉え、言葉を超えたことばを感じ取る感覚を磨きさえすればよいと思います。古の人びとと対話することを楽しみましょう。「能面」をつくることは、その近道です。