能面、不可思議

能面を見た時 はっきりこの面の表情はこうだと言い切ることはできるでしょうか。能面をひとに見せた時 よく分からないという言葉を多く聞きます。表情にぴったり当てはまることばを探せないからでしょうか。それはことばだけで理解しようとしているからでしょう。

 ことばで理解したと思った時果たして面を本当に分かったことになるのでしょうか。ことばで言い当てたと思った時 面の意味を限定してしまっていることになります。そのことば以外のものは見えなくなってしまいます。

重層な思いを持つ面 特に女面では、見る側の心情によっては違った性格が見えてきます。見る人が今の自分の気持ちと向き合って面と向き合って、自分の気持ちと重なり合う点を探し出す過程が本当に能面を理解したことになるのでしょう。単に一つのことばで言い表したつもりになってしまうことは、自分の気持ちを無視することになりまた、面の豊かな表情も見失うことになります。ことばを捨て自己の心のひだと面を重ねるという行為の中で遊べばよいと思います。こころで見るということでしょうか。

 能面は言葉では表現しきれない性格を持っています。別な言い方をすると、見る側に様々な想像をすることを許してくれています。まことに不可思議な物体です。その不可思議な性格ゆえ、能のなかで脈々と伝えられ、今日まで残ってきました。

現在あたらしく生まれている能面たちも、複雑なそして不可思議な性格を持っていれば、今後何十年、何百年と伝えられていくことでしょう。そのような能面を作ってゆきたいものです。