光と影

 能面を打つ時には陰影が舞台でどのような効果を発揮するのか気にします。

正面からの光、斜め上方からの光、おもてを照らす/曇らすそのときの影また、おもてを切るときの残影 あらゆる動きの中に主役の面の思いを考えます。

 特に彫刻はそれらすべての基本となっています。いくら彩色で妙味が優れていても彫刻の基本が不十分ならば舞台で使うことは難しいでしょう。彫刻が完成され、その上で彩色が優れている時、幽玄の陰影が現れてきます。彫刻と彩色のバランスの上に能面は成り立っています。どのようなバランスがよいのかは能の舞台を実際に観て、舞台と能面、さらには照明との関係を全体的に把握しなければ分かりません。

 能面を依頼されるとき、使用される舞台は屋外なのか屋内なのかどこの舞台でどのような照明を使っているのか知っておくことが必要でしょう。それでも実際の舞台では計算しなかった効果が見られることがあります。特に自然光が入る舞台では、時々刻々光の色の構成が変わってゆきます。早朝の青味かかった柔らかい光、真昼の硬い光、日暮れの光それぞれの光のもとで能面は様々な表情を見せます。影の強弱が変化してゆくからだと思います。

 光と影の変化、すべての幽玄がこれに関わってきます。能面を作る時はこの現象を十分に考えることがよい面ができる条件であります。